大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)134号 判決

上告人

金洪錫

代理人

越山康

被上告人

川村和錫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人越山康の上告理由について。

原審の適法に確定したところによれば、上告人と被上告人との間で、上告人が訴外本川順錫から交付を受けた被上告人振出にかかる本件小切手金の支払に関して和解契約が成立し、被上告人から上告人に対して金五五万円を支払う旨を約したが、右小切手は、賭博によつて右本川が負うことになつた金銭給付義務の履行のために、同人から上告人に交付されたものであつたというのである。してみれば、本来、上告人が被上告人に対して右小切手金の支払を求めることは、公序良俗に違反するものとして許されないところというべく、右和解上の金銭支払の約束も、実質上、その金額の限度で上告人をして賭博による金銭給付を得させることを目的とするものであることが明らかであるから、同じく、公序良俗違反の故をもつて、無効とされなければならない。このことは、右合意が論旨のいう創設的なものとして、すなわち、小切手金支払債務の存否と無関係に金銭支払義務を負担すべきものとする趣旨でなされたものとしても、異なるところはない。右契約の実質に存する不法性は、当事者の合意によつて払拭しうるものではないからである。

叙上と同旨の原審の判断は正当であり、論旨の引用する判例は、当裁判所の採りえないところであつて、原判決に所論の違法は存しない。それ故、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(小川信夫 色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例